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トップ > 週刊バルトジャーナル178号から
『地場系最大手銀行破綻劇!』迫り来る経済危機?!〜ラトビア

 

前編:金融機関も瀬戸際か?

とうとうバルト3国にも世界の金融危機が直撃してしまった!

これまではどちらかというと対岸の火事的問題として見られてきたこの金融危機、この地では、金融危機というよりも不動産バブルの崩壊、極度の消費意欲、超インフレ、所得の暴騰、極端な人材不足等の方がより問題が深刻だと見られてきた。

しかしながらどんな国であろうと世界経済とは切っても切れない関係であることは明白で、不動産バブルの崩壊を引き起こした融資の厳格化を起因にして、経済動向にも大きな影を落としていた。

この信用収縮が拡がる中、金融機関は資本調達が日増しに難しくなってきている。

前号(週刊バルトジャーナルVol.177)でも取上げたが、これまでは親会社から資本を調達すればよかった銀行の多くが親会社自体の信用不安により、独自で資本を調達せねばならなくなり、流動性資産が十分だと見なされてきた北欧系の金融機関でさえ、下手をすると1日で全ての資産が吹き飛びかねない危険と隣り合わせの日々を送っている。

実際、前号で取上げたラトビアの金融機関の破綻危機の噂だが、早速それが現実的なものになってしまった。

誰もがありえないと箍(たが)を踏んでいた地元最大資本誇る金融機関が借入を償還できず、国有化の道を歩まざる得なくなった。

因みに金融機関の不安が広がっていたラトビアでは、この10月だけで実に4億6100万ラッツ(約806億7500万円)の預貯金が銀行から引き出されている。

この金額は、総預貯金高の4.6%にあたり、特に非居住者の預金の引き出しは5.7%分相当に達し、居住者の預金は3.6%分が引き出された計算となっている。

そしてバルトジャーナルでも紹介したが、格付け会社Fitchがラトビアは直ぐにでもIMFなどの機関から融資を得られるように準備を整えておく必要があると指摘している。

同社の分析では、ラトビアは海外からの支援がない限り、経済危機は更に悪化しかねない程ファンダメンタルズが劣化しているという。

ラトビアでは11月9日に国内第2位の融資シェアをもつパレックスバンク(Parex banka)が破綻してしまった。

今回の世界的な信用不安を端にしたバルト3国からの金融機関の破綻は同行が初めてである。

ラトビア政府も早々に同行の国有化に着手したわけだが、ラトビア自体がアイスランドのように破綻の危機に直面していることを踏まえると、国有化したから今後は安泰とはなかなか言い難いというのが現状である。

そのラトビア政府だが、国有化と同時にパレックスバンクに2億ラッツ(約350億円)の公的資金を注入している。

しかしながら、新たに頭取に就任したInesis Feiferis氏は、更に2億ラッツ(約350億円)の資本注入は不可欠だとして中央銀行に更なる公的資金の投入を求めている。

国有化発表後にラトビア政府は6400万ラッツ(約111億3600万円)の新たな国債の発行を発表したが、この国債は銀行救済の為の資本確保との声が聞かれ、結局入札が入れられたのは、2890万ラッツ(約50億3000万円)に留まっている。

計画の半分以下に留まった新規国債だが、実はこの国債には、金利11.18%という超高利率が付いていた。*償還は09年2月6日を予定

ここまで高い金利を付けてでさえ売り切ることが出来なかったということでも世界的に如何にラトビアが破綻リスクに直面しているかを窺(うかが)い知る事が出来る。

この破綻したパレックスバンクであるが、ラトビアの他にもリトアニア、エストニアでも事業を始めていた。

後出のエストニアではまだまだシェアは小さく、エストニア国内では殆ど今回の破綻騒動では被害は出ていない。

ラトビアに次いでシェア拡大を目指したリトアニアでは、国有化発表と同時に、同行支店も預貯金の保全はラトビア政府が行うことを顧客等に伝え、大きな騒動には発展していない。

そしてペイオフを10万ユーロ(約1240万円)まで引き上げているリトアニアで、同国初の新ペイオフが発動されるということにもなり、預貯金者はリトアニア政府からも最大10万ユーロ(約1240万円)が保全されるということになる。

それでもリトアニアの金融機関からは10月1日からこれまでに4億4000万リタス(約158億4000万円)の預金が一旦引き出されたが、今週に入って3億4200万リタス(約123億1200万円)が戻ってきている。

預金総額400億リタス(約1兆4400億円)からすると、一時的に1.1%が流出した計算になる。

金融機関への連鎖破綻の恐怖を払拭する為に、リトアニア中央銀行は、国内の他の金融機関に破綻を懸念する銀行は存在しないと声明を出している。

それにしてもパレックスバンクの実質破綻劇はバルト3国ではやはり金融機関への信用不安を増長させたことは確かである。

ラトビアでトップシェアを分け合っていたのはSwedbank、SEB、Nordea、そしてパレックスであった。

金融機関のウインブルドン化が顕著であったバルト3国では、パレックスは地元系としては最後に残された最も大きな金融機関であった。

信用不安が起こることが懸念されたエストニアでもAndres Sutt中央銀行副総裁がエストニアの金融機関はその殆どが北欧の金融機関の子会社か支店であり、そういった意味では、現在、経営が不安視される状況にはないと国内では銀行破綻が起こらないことを強調している。

ただし、地元系の金融機関を持たないエストニアは、今回は最も被害が少なかったかもしれないが、中央銀行を除く銀行の殆どが外資であることは、ある意味、外国政府もしくは外国の親会社の意向に沿った経営に左右されることは大きな危険だとも言えなくもない。

エストニアのパレックスバンクの支店には、約3500人の顧客がいるという。

その半数は個人で、国内シェアは0.5%に過ぎない存在であった。


前編おわり


後編:地場系最大手銀行、破綻劇!

ラトビア政府はパレックスバンクの国営化を先週末となる9日に決めている。

その後は直ぐに2億ラッツ(約350億円)の公的資金の注入を実施し、51%の株式の取得を発表した。

取得株式数が過半数となる51%ということから、完全な国有化とは言えないかもしれないが、過半数を確保してことで、他の株主の意向に左右されずに今後の経営に着手できることを確保したと言えるだろう。

日本にとってパレックスバンクとは全く関係を持たない存在のように聞こえるかもしれない。

しかし、実は2005年にみずほ銀行がアジアの他金融機関や欧州の銀行等と組んで同行へ約7000万ユーロ(約86億8000万円)のシンジケートローンに初めて参加している。

そして一時期、東京の大手町にオフィスまで抱えていた。

今回、パレックスバンクは、このようなシンジケートローンの返済に困窮し、結果、破綻せざる得なくなっている。

今回、ラトビア政府が注入した2億ラッツ(約350億円)の公的資金を担保させる為に引き受け先となったLatvijas Hipoteku Bankaはパレックスバンクの大株主であったViktors Krasovickis氏とValerijs Kargins氏の株式や不動産を担保として差し押さえている。

一方で両氏は、担保に入れた株式51%を実質2ラッツ(約350円)で手放した格好となっている。

両氏は51%を手放した格好ではあるが、元々84%の株式を所有していたので、依然33%の株式を所有している勘定になる。

残りの株式は多くの少数株主がおり、最終的には全株をラトビア政府(引受先)が買い取ることになると見られている。

これまでの既存株主の構成はValery Kargin氏とViktor Krasovicki氏がそれぞれ42%、East Capital Fundsが約4%、Danske Capital Fundsが2.7%、Julius Baer International Equity Fundが約2%、Firebird Fundsが約1.8%、Swenska Handelsbanken ABが0.3%をそれぞれ所有していた。

実質破綻という格好だが、これまでは同行の資産総額は7000億円を超えていた。

ラトビアの金融機関は長らくマネーロンダリング(資金洗浄)のメッカとして悪評高い地域でもあった。

EU加盟後はアメリカ国務省によりマネロンブラックリストに国内の何行かが名を連ねるという汚名をかけられている。

そして当時はあまり指摘はされなかったが、事業拡大を狙ったパレックスバンクもプライベートバンキング部門の強化に走ったことでロシアから多くの顧客を集めることに成功した。

同行が問題視されたのは、預かり資産の半数にあたる35億ドル(約3400億円)が実に非居住者からの預かり資産で、その多くがロシアからのものであった点だ。

アメリカ国務省もロシア当局もパレックスバンクが極めて高い確立でマネロン(資金洗浄)に協力していたのではと見ている。

破綻の危機に直面していた先月、同行は来年2月に2億7500万ユーロ(約341億円)、そして6月に5億ユーロ(約620億円)を欧州や日本の金融機関に返済する為の資金調達の困窮を示唆していた。

一旦経営危機の噂が広がったことにより、一気に預金が流出する取り付け騒ぎが起こってしまった。

一旦広まった経営危機の噂は、預貯金者の預金引き上げ、つまり取り付け騒ぎにまで拡大し、国有化されるまでの数日で6000万ラッツ(約104億4000万円)の預金が引き出されてしまった。

預金の引出しに走った顧客の多くは、預貯金5万ラッツ(約870万円)以下の顧客だったといい、銀行への不信とペイオフへの実行不信が合い重なり、預金流出は急速に拡がってしまった。

国の監督下に置かれることになった同行へは、ラトビア政府も政府機関や政府系企業等に預貯金の引き出しを禁止すという制限を課している。

Ivars Godmanis首相は、全閣僚に対し、監督省庁以下の政府機関に預貯金の取り扱いに関し、各省庁の許可を得てから行うとする通達を出している。

今回の救済策では、ラトビア政府は国営のLatvijas Hipoteku unzemes banka(Mortgage Bank)を受け皿として、パレックスバンクの株式51%を引受、上記したように株主の2人にそれぞれ1ラッツ(約174円)を支払うことで株式を買い取っている。

では今後何が問題とされるかというと、これ以上の破綻があるのかないのかということだ。

既に居住者分の預かり資産20億ラッツ(約3480億円)の国内最大の地元系銀行であるパレックスバンクを救済した。

同行以外で地元系の金融機関としては、Rietumu Banka(一部アイルランド資本)とAizkraukles Bankaの両行が預かり資産10億ラッツ(約1740億円)と比較的規模が大きい。

これ以外の銀行は外国に親銀行があり、スウェーデンやロシアなどの本国の金融政策に保護さることになり、中小の地元系金融機関が例え破綻しても国内にはそれ程の影響を及ぼすとは考えられていない。

つまり、ラトビア政府として10億ラッツ(約1740億円)以上の規模をもつ3行を救済できれば、何とか銀行システムを維持できるのではと見られているが、今、市場で噂される通貨ラッツの切下げが現実的なものになるのであれば、自身でこの難題を乗り越えられるかは極めて困難だと言わざる得なく、もしIMFや世界銀行などから資金援助を求めるようになってしまうと銀行救済どころか国家の存続さえ懸念されることになる。

そして今回のラトビア金融危機で漁夫の利を得ようとしているのが実はエストニアだ。

エストニアの金融機関のほぼ全てが北欧の金融機関が傘下においている。

シェア上位2行のSwedbank(旧Hansabank)もSEB(旧SEB Eesti Uhispank)もスウェーデンを本国とする金融機関で、本国の金融機関の経営に左右される。

これまでのところ、両行とも経営が即悪化するといった懸念はあまり高くはなく、万が一にも破綻危機に直面したとしてもスウェーデン政府が救済することになり、エストニア政府よりもよりセーフティーネットが完備していると考えられている。

*因みにSwedbankはデンマークのDanske Bankによる救済合併が噂されている。

パレックスバンクの経営危機により、実は先月以来、ラトビア、リトアニアからエストニアへ530億クローン(約4187億円)の資金が流入している。

つまり、より健全性が高いとされるエストニアの銀行に預金を移した預金者(個人/法人)が急増しているのだ。

エストニアでもここ最近は海外へ資本が流出してきたが、今件で昨年11月以降で初となる流入増を記録している。

このキャピタルインの流れは当分続くと見られ、ラトビアだけではなく、地元資本の金融機関がシェアをもつリトアニアからも預貯金はエストニアへより高い安全を求めて移動すると見られている。




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