エストニア銀行
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07年1月1日からブルガリア、ルーマニアがEU加盟を果たすことが決まり、巨大化する欧州・中東欧に続き、巨大市場として台頭しつつあるロシア、GDP成長率が10%を上回るバルト3国、国営企業の民営化を急ぐCIS諸国といった地域の経済状況などの情報を配信しています。

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トップ > 週刊バルトジャーナル120号から
軟着陸かエストニア経済?!

 

独エストニアの経済状況について昨年末から経済界で大いに盛り上がっている。

内容はどちらかというと悲観的なものが中心で、短期収益を狙った投資家等の思惑に反する方向に経済が舵を取ろうとしている。

週刊バルトジャーナルVol.119でも『悲鳴を上げるバルト3国〜ハードランディング懸念も〜』というタイトルでこの地域の経済環境を取り上げたが、バルト3国の銀行業をほぼ独占するスウェーデンでは、これらの地域を『カジノ経済』とリスクが迫っていると投資を控えるようにと紙面が一時期踊っていた。

経済界では、地元金融機関を中心に如何にこの過熱気味の経済を冷却化させられるのかが連日討議されている。

エストニアの財務省も09年にはリセッションに入る可能性を示唆している。実際に最も懸念されている異常な高インフレが今年に入り明確なレベルに達し、これ以上対策を遅らすことが出来ない所まで追い込まれているというのが大半の分析だ。

バルト3国の経済危機を今年最も危惧したのは世界的な格付け機関として著名であるスタンダード&プアーズやムーディーズ、そしてフィッチなどである。この3機関が2月にバルト3国の財務格付け見通しを引き下げた辺りから今後大きく環境が変化するのではと懸念を示す投資家が増えている。

では、実際にエストニアの経済状況はどうなっているのだろうか。

エストニアは2006年度に二桁成長となる11.4%の高経済成長を記録した。二桁成長は05年に続く2年連続の高い経済成長であり、そして1997年の11.1%成長を上回る高い経済成長を示した。

過去12年間のGDP成長率平均のほぼ倍という誰もが羨む経済成長を謳歌したことになる。

しかし、それがここにきて若干の雲行きが怪しくなっている。2年続いた高い経済成長を背景に賃金が高騰し、輸入高が輸出高を大きく上回る巨大な貿易赤字を生み出した。

今年も08年度も8%以上の経済成長が続くと予測されるが、今、賃金の上昇を修正し、貿易バランスを整えない限り、ブレーキがかからない列車のように崖から飛び落ちてしまう可能性を秘めている。

07年、08年とユーロの導入目標時期を延期してきたが、この環境下では実際にいつ加盟できるのか全く予測も付けられない状況にある。隣国のラトビアでは、現在の固定通貨制度(ペックス)での為替レートでは同国経済を明確に反映していないと通貨アタックを頻繁に受けている。正にタイの通貨危機と同じ状況下にある。

エストニアにとってラトビアの例は参考として最良で、まだ依然好調な経済と財政がラトビアと比べて強固であることが通貨アタックを受けなくて済んでいる理由だと見られている。

これまでの経済成長は、実際にはスウェーデンを本拠とするスウェドバンクとSEBが競うように融資を拡大してきたことで個人、法人問わず支出を膨らませてきたことが大きく経済成長を支えてきた。漸くここに来て両行とも本国そしてエストニアの中央銀行の指示を受け、融資を厳格化することに本腰を入れ始めた。

銀行による融資厳格化により市民等の心理もこれ以上の借入れは難しく、支出の削減が急がれると判断されるのであれば、経済のピークは現在の時点で止まり、今度は如何に軟着陸させるかが国を挙げての論点となるだろう。

市民等は不動産、株式などへの投機的な投資を控え、安全な貯蓄へシフトすることが出来れば多少の損失も十分受け止められる状況にあると思われる。

実際、不動産市場からは、海外からのキャピタルゲイン狙いの投資家は1月に入ってから完全に消えてしまったようで、株式市場では2月3月の世界的な株価調整の中、無謀な投機的買上げは静まったように見えている。

しかし、それでも今年のエストニアは少なくとも8%、そして09年度では7%の経済成長が見込まれている。

高い経済成長を背景に、就職活動もまだまだ容易に出来、好景気が始まる前の最悪期にあった15%近い失業率からは、今日の姿を想像すらできない。

失業率はこの1月に4.2%、2月で4.9%と低い水準に留まっており、一方で賃金の上昇圧力にもなっている。

エストニア経済は、北欧、隣国で言えばフィンランドの好景気に支えられている。フィンランドの失業率も80年代以降で最も低い水準を記録中で、人材不足からエストニアから熟練工を引き抜くなどして人材不足を補っている。反対にこの流れがエストニアの人材不足を大きな問題化とさせている。

人材不足を補うために企業はスリランカなどのアジアやウクライナ、ベラルーシなどのCIS諸国から安い人材の雇用を試すが、政府による外国人雇用規制が厳しく、申請の多くが却下されるという有様だ。

政府の外国人労働者規制が緩和されない限り、人材は国内調達せざる得なく、それが賃金の上昇圧力に油を注いでいる。

エストニアの就労人口は、過去80年代に最も就労人口が多かった時でさえ84万人程度であったが、2000年には57万2000人にまで就労人口が激減してしまい、それが漸く64万6000人にまで回復したところだ。2000年と比べても現在の経済規模そして将来的な経済成長を踏まえると人材が極端に不足する状況は当分解決の糸口は見当たらないというのが現実だ。

賃金上昇率は、05年第1四半期に4%であったが、06年第4四半期には11.2%と3倍近い上昇率となっている。人材不足が正に賃金上昇のネックとなっている。現状は、北欧経済の継続的拡大を背景に、エストニアも今後2年間は国内の労働市場の状況に変化はないと見られている。ただし、これまでのような賃金上昇は政府を挙げて牽制されるとの思惑から、年率7〜8%程度に抑えられると見られている。

ユーロの導入を阻んできたインフレ率は、この2年間、4〜4.5%程度にあったが、過去12ヶ月間を見ると、この数字が5%を超えてきている。実際、07年3月期の消費者物価指数は5.7%を記録し、ますます通貨統合は全く何時の事になるのか想像すら出来ない状況にある。

本気でエストニアが通貨統合を目指すのであれば、2.7%程度のインフレ率に留める必要がある。

エストニアが抱えるインフレ問題は、上記したように賃金問題もあるが、生産性の低さも大いに問題となっている。生産性が低いことで商品価格が上昇せざる得なく、また、賃金上昇という圧力がより高い価格設定にせざる得ないという悪循環の中にある。

そして外部要因とすれば、石油、ガスなどのエネルギー価格の高騰などがインフレに油を注ぐ。

インフレ率は、今後は政府の努力や過剰な消費を控える市民活動により低下傾向を示すと思われ、08年には3.5%〜4%にまで低下し、徐々にユーロ導入条件のマースリヒト基準から試算した予測値2.5%〜3%以内に落ち着くのでは思われる。

ただし、エストニア財務省の予測では、今年のインフレは4.9%、そして08年度は5.2%と依然高いインフレ率が予測されている。

これらの諸要因を踏まえると、実際のユーロ導入は早くても2010年、そして現実的には2011年か2012年が妥当というラインとなる。

賃金上昇、人材不足、高インフレに続く大きな問題として経常赤字の急拡大がある。

06年度のエストニアの経常赤字は実にGDPの13.8%に達している。この水準は中長期的に見て危険域にある。現在の経常赤字水準である二桁のレベルは、2002年から始まり、それ以降今日までの4年間継続して高い水準を維持している。

対外債務総額は98年の対GDP比での50%から06年第3四半期には85%の水準にまで急上昇している。この債務の大半は、銀行によるものだ。銀行債務はGDP比で見ると、実に46%に達しており、98年当時の18%を大きく上回っている。

ただし、銀行界がエストニアの金融危機を引き起こす可能性は現状では極めて低いと言える。エストニアの銀行は、その殆どが外資の傘下に入っている。それも隣国のスウェーデンという経済大国、そして現在も好景気に沸いている。

そういった意味では、銀行による海外(親会社)からの借入れは、実際には資金の引き上げ懸念のない海外からの直接投資みたいなものである。

市民等も好調なEU経済を背景に、自国のエストニアクローンではなく、ユーロに預貯金をシフトし始めていることから、ユーロ需要が拡大していることも収支を悪化させる要因となっている。

実際、国内の銀行がどれ程親会社等から資金を借り入れているかと言えば、貸し出し融資総額の実に80%に上っている。一部で中央銀行がマネーサプライを調整しているといった話は実は全くの誤解である。この数年間を見る限り、実際にはエストニアの金融機関の資金は親会社があるスウェーデンなどが操作していたようなものであった。

そして市民のユーロ貯金も、全預貯金の30〜40%を占める様になっている。

これらの問題は、近い将来、実際に通貨がユーロに取って代わられたら、消滅すると考えられるので、大きな問題にはならないかもしれない。ただし、それが何時になるのかに議論の余地がある。

通貨が統合されるまでの間、如何に通貨アタックに対応、そして備えることが出来るかの対策を講じなくてはならない。そのための政策は、早急にそして市民等の消費意欲を削ぎ落とし切らないように徐々に進められなければならない。

一度、市民等が自国通貨に安心感をなくしたら、大きな問題として跳ね返ってくる。

市民等は、増加させてしまった借り入れ債務を可能な限り早急に減らして行き、一方で蓄えを増やすように生活スタイルを変えていく必要がある。

問題を抱えていると呼ばれるエストニアではあるが、それでも実際は高い経済成長を持続させていく。

エストニア財務省では、07年度のGDP成長率を9.2%と予測し、08年8.3%、09年7.7%と今後3年間は少なくとも今の状況が大きく変わるとは見ていない。

この水準は、欧州の中でもトップレベルで、エストニアが欧州の中で最も優等生であるという状況に変わりはない。

そしてエストニアの経済研究機関であるEKIも最新レポートの中で、『エストニア経済は軟着陸することになる』と多くの懸念を払拭する内容を発表した。

同レポートでは、『今後6ヶ月間に国内経済は急速に冷却化することになり、生産性に対して上手く賃金の上昇を抑える事が出来れば、懸念は払拭される』と紹介している。

つまり、市民等は賃金上昇率が抑えられることを受け入れるようにとの内容だ。

後は、上手く支出を抑え、借り入れを減らし、高インフレを操作できれば現状は打開出来るということらしい。

今のエストニアは、急速に成長した経済がその勢いに耐えられず悲鳴を上げているような状態である。

きちんと処方箋を出して、早めに対応すれば必ず乗り切ることが出来、新たな経済成長を謳歌することになるだろう。この国は十分その素質を有している。


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