リガの旧市街地からの展望
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07年1月1日からブルガリア、ルーマニアがEU加盟を果たすことが決まり、巨大化する欧州・中東欧に続き、巨大市場として台頭しつつあるロシア、GDP成長率が10%を上回るバルト3国、国営企業の民営化を急ぐCIS諸国といった地域の経済状況などの情報を配信しています。

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トップ > 週刊バルトジャーナル133号から
EUのシリコンバレーを目指して〜ウクライナ〜

 

今のウクライナをご存知だろうか?ウクライナといえば、チェルノブイリ原発事故を思い出す方が大半だと思うが、実は旧ソ連時代からの流れを汲みウクライナのIT技術は物凄い発展を遂げている。

現在、ウクライナは新たな経済成長の起爆剤としてIT業界に注目しており、ヨーロッパの中でITのアウトソーシングハブになろうと全力を挙げている。

巷で語られるウクライナのイメージには、機能不全気味な政界、官僚主義、不透明なビジネス環境及び慣行等があり、それらにより企業のウクライナ進出には疑問符が付けられてきた。

04年のオレンジ革命以来、多くの困難な問題が次から次へと造成されてきたが、それでも経済は継続的に成長拡大を続け、2006年度GDPも2.6%予測から6%成長へと大きく伸ばしている。同様に海外からの直接投資も順調に増えてきている。

そんな中でITのアウトソーシング事業はウクライナ経済にとって重要な役割を負う様になっている。

この6月に公表されたITのアウトソースコンサルGlobal Offshore Associates Limited (Goal)が行った調査結果がある。

その中でウクライナはヨーロッパの中で最もアウトソーシングしたい国の一つと高く評価されている。ウクライナが魅力的な点は、『低コスト』『西欧に隣接している』『人口が4800万人強もある』ことなどが挙げられる。

Goalによると、ウクライナのITアウトソーシング産業は、昨年1年間に事業規模自身は47%拡大し、1億7900万ユーロにまで市場は拡がっている。

ウクライナのハイテク・イニシアティブ、アウトソース関連企業などは巨象であるインドの95億ユーロとは比較にはならないが、4億3600万ユーロほどの規模に達している。

ウクライナが狙うのは低コストニッチ分野とされる高品質且つ極めて技術レベルの高い分野へ格安の賃金を武器に市場シェアを奪い取ろうとしている。ウクライナの若年技術者は、月130〜145ユーロで実際に外国企業に従事している。

ウクライナの優位性は、低賃金という共通の戦略を持つポーランドやスロバキア等の諸国との競争でも、これらの国ではEUに加盟したことからウクライナと違って就労には多くの規制(就労規則)が存在し、ウクライナにはこの様な面倒な縛りがないことにある。新規にEUに加盟した諸国では結果的に賃金上昇から競争力を完全に削がれる状況に追詰められている。

ウクライナのIT業界では、顧客企業へのソフト開発チームを組織し、知力を集中させることでウェブ開発などでその潜在力を強める戦略を取っている。その底力とも言える専門技術者として実にウクライナには7500名以上ものソフト開発者が全土に存在している。

ITアウトソースの中心地は、やはりインフラが最も整った首都キエフだが、その他にはLviv、Donetsk、Dnipropetrovsk、Odessa等があり、これらの全ての都市で低賃金を武器に業界は急速に成長を続けている。

ウクライナのIT業界に熱い視線を注いでいる国の一つにドイツがあり、ドイツでは、その理由を自国との距離感の近さや低労働経費、そしてその専門性の高さ等を挙げている。

また、北欧からはノルウェーを本社とするオープンソースコンテンツ管理会社であるeZ Systemsがウクライナのオデッサに03年に進出しているが、その進出理由をウクライナの人材をその最大の理由に挙げ、ウクライナが持つヨーロッパ文化との類似性やその将来性に強く興味を感じたという。

ただし、現在の所、ウクライナの最大の顧客は文化、言語などを含め地政学的理由によりロシアとなっている。

ロシア最大のソフトウェア会社の一つで、米デル、T-Mobile、ドイツバンクなどを顧客に持つLuxoftもウクライナの持つ潜在力に共感している。

ウクライナ人ソフト開発者の能力の高さ、英語力、そしてマネージメント能力の高さなどどれをとってもどのITアウトソース諸国とも全く引けを取らないという。

ウクライナ人への評価の高さからLuxoftでは、オデッサでウクライナ人技術者を当初の45人から150人にまで増員し、キエフでは現在の280人から今年度末までに600人体制にまで拡大することを計画している。

Luxoftの見立てでは、ウクライナのIT産業は、そのスキルの高さから近い将来米マイクロソフトやその他の西側IT大手が進出してくることは間違いないと予測し、直に人材確保から青田買いを生みウクライナでも賃金上昇は起こるだろうが、EUに既入している新規加盟諸国等のIT企業もそれ以上の賃金上昇を起こすことになり、結果的に非EU加盟諸国の優位性はより拡大するとITアウトソーシング業界の将来像を描いている。

これまで旧ソ連で且つIT産業が盛んなバルト3国のIT企業へ巨額な投資をしてきたMartinson Trigon Venture Partnersでは、ウクライナは身につけたIT技術をより有意義にする為に今こそ世界観を持った行動を取るべきだとその潜在力の高さを高く評価している。

ただし、ウクライナが持つ政治的不安定、ビジネス環境の改善などが絶対条件であることも忘れてはいけないとの指摘もある。

あくまでもウクライナの魅力はそのコストの低さである。キエフの賃金はロシアを20%ほど下回っている。同様にDnipropetrovskでは35%下回わる。

最大の問題点はインフラ整備で、電力や電話線の設置はとても高く、電力供給も電話の通話状況も不安定な状態にあり、非合法なインフラ設備も多々見られる。

米アウトソースコンサル会社TPIが7月に発表したレポートには、ヨーロッパのアウトソース需要はこれまで以上に高まっているという。

ITコンサル大手のAT Kearneyによると、低コストを目的とした企業のオフショア化(アウトソース)は、まだまだ20年近くは持続するという。AT Kearneyが発表した2007年度版Global Services Location Indexの中では、アウトソース地の賃金格差は世界的に縮小しており、今後は高い技術をもった人材の有無やビジネス環境がその判断基準となると指摘している。

同インデックスには、50カ国がアウトソース国として挙げられている。その中にはバルト3国やウクライナの他、中東欧諸国が入っている。これらの新興諸国では通信コストが25%以上も下落し、通信産業の活性化と拡大が期待されている。

同インデックスで取り上げられた中東欧諸国には、ブルガリアを筆頭に、スロバキア、エストニア、チェコ、ラトビア、ポーランド、ハンガリー、リトアニア、ルーマニアなどがあり、CISからはロシアとウクライナがリストに挙げられている。

より賃金が低い諸国へとアウトソース先を移動させてきた国際企業も今後はそのアウトソース先が狭まる中、より廉価で高スキルをもつ諸国を求めて人材排出が出来る諸国へ人気が集中することになるだろう。




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